創造性を“仕組み”にしてしまった男の話 フェラン・アドリアとエル・ブリ

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こんにちは! JOL(@GIANSTEP1)です。

映画「エル・ブリ」を観ていて、途中でふと違和感があったんですよね。
「……あれ? これ料理を主軸にした映画じゃないぞ?」というやつです。

スペインの一地方にあった、たった50席のレストラン。
でも、世界中から年間200万件の予約が来て、
ミシュラン三つ星、世界一5回という“とんでもない存在”になってしまった。

普通なら「天才シェフの奇跡!」でまとめられるところですが、
映画の裏側を見たあとだと、むしろ逆で。

これは創造性を“偶然”じゃなく“再現可能な仕組み”に変えた男の話なんだな……
と強く思ったんです。

今日はその視点で、フェラン・アドリアの“創造OS”を少しゆるく解きほぐしてみます。


1. フェラン・アドリアってどんな人?

(肩書きはシェフだけど、実態は「クリエイティブの設計者」でした)

分子ガストロノミー、液体窒素、凍結乾燥…。
フェランの名前を聞くと、なんかすごい理系の実験みたいなイメージがありますよね。

でも映画を観ると、印象がまるで変わります。

フェランは「天才のひらめきで料理を作る人」ではありませんでした。
むしろ逆で、

ひらめきをプロセスにして、何度でも再現できるようにした人 なんです。

この時点で、すでに普通のシェフではありませんよね。
仕事の本質は「料理」ではなく、「創造の仕組みづくり」に近いです。


2. エル・ブリ流の“創造の3要素”

(言葉だけ見ると当たり前。でも、彼は本当に“使える形”にした)

フェランはこう言います。

  1. 歴史の料理を見直す
  2. 今の料理を違う角度から見直す
  3. 歴史にも今にもない料理をつくる

はい、これだけ読むと「そりゃそうだよね」です。

ただフェランがすごいのは、この3つを
アイデアの評価基準として組織に実装したことでした。

多くの人は「①②を参考にしつつ③を目指す」で止まるんですが、
フェランはその手前に「共通のものさし」を作ったんです。

創造性って本来ふわふわしてるのに、
それをみんなで議論できる“共通言語”にしたところが大きいです。

「みんなひらめけ!」だと絶対に崩壊しますからね…。


3. フェランの“4つのすごさ”

(理想と現実の往復を、本人が全部やってしまう)

フェランが突出していた理由を4つに分けるとこうなります。

  1. 思考と試行の往復が異常に速い
  2. 決断が早い(しかも的確)
  3. 実行までの距離が短い
  4. この3つを止めずに回し続ける推進力がある

こう言うと簡単ですが、実際に全部できる人はほぼいません。

理念だけ語る人、行動だけ早い人、決断が遅い人。
それぞれタイプが違うものですが、
フェランは 全部ひとりで持っていた唯一級の存在 でした。

そりゃ世界的レストランにもなるよな…というやつです。


4. 自分たちの独創性を“棚卸しした”話

(レストラン史上、最も頭のおかしいけど合理的なプロジェクト)

2002年ごろ、エル・ブリはある大実験を始めます。

「自分たちの創造の進化の系譜をつくる」

なんじゃそれ、と思いますよね。

でも実際にやったことは、めちゃくちゃ地道です。

・過去料理を全部データ化
・独創性が高い料理に番号を振る
・模倣に近いものは除外
・技法、素材、思想で分類
・影響元を明記
・未解決のテーマも書く

これを延々やっていくと、
エル・ブリの“独創の核”がどこにあるか が見えるようになります。

これが次の料理の“ヒント集”にもなる。
レストランにおけるナレッジマネジメントとしては、たぶん世界最高レベルです。

一般の飲食店ではまずありえない取り組みですね…。


5. 天才の頭を“標準化”したシステム

(わかりやすく言うと、フェランの脳みそを外部ストレージ化した)

この系譜づくりの結果、
創造性を客観的に評価するシステム ができあがります。

さらに圧巻なのが「ジェネラル・カタログ」。

全5巻で、

・発見日時
・影響を受けた思想
・使用素材・技法
・やり残したこと

まで書かれている。

これ、もう完全に“料理の論文集”です。

そして効果はとても実務的。

  • 天才の暗黙知を他者が使えるようになる
  • 新しいアイデアの生産性が跳ね上がる
  • オリジナリティの源泉が見える
  • 全員が同じ基準で議論できる

要するに、

創造性が一人の才能から、組織全体の資産に変わった瞬間です。

企業で言えば「R&D部門の標準化マニュアル」みたいなもので、
これがあれば新人でも戦える。

普通のクリエイティブ組織に一番欠けている部分でもあります。


6. 「オープン戦略」という逆張り

(秘伝主義の世界で“全公開”して成功してしまった)

料理の世界では、技術は隠すのが当たり前です。

ただフェランは真逆にいきました。

レシピも技術も考え方も全部公開する。

Forbesではこう言われています。

「フェランは“支店を作らない多国籍企業”を作った。」

つまり、
知識を売ることでブランドを育てたということですね。

だから世界中から研修希望者が絶えない。
予約は200万件くる。

オープン戦略とブランド構築が両立する、珍しい成功例です。


7. マネジメント面で見える「フェランの強さ」

(権限移譲と複数タイムラインの両立)

映画で印象的なのは、フェランの右腕・左腕となるメンバーの存在でした。

フェランは彼らにどんどん権限を渡していきます。

・評価基準を共有し
・カタログで共通言語をつくり
・実験プロセスを任せ
・将来のリーダーに育てる

これは完全に「天才の分身づくり」です。

さらに、フェランは次の5つを同時並行で走らせていました。

・R&D
・メニュー開発
・店舗運営
・ブランド戦略
・外部との連携

これ、経営書でいう「マルチタイムライン管理」です。
並列処理の精度が高い人は、どの分野でも強くなります。


8. レストランから“知識インフラ”へピボット

(財団化して「料理OS」を開発する組織になった)

閉店後の2014年、エル・ブリは“財団”として再スタートしました。

・イノベーション研究
・調理法データベース
・デジタル化
・新しい料理OS

もはやレストランではありません。

「知識を進化させる組織」へと進化したんです。

料理を出す場所ではなく、知識を蓄積し続ける研究所ですね。


9. エル・ブリから学べる“ビジネスの本質”

(どの業界でも使える考え方ばかり)

  1. 創造性は才能ではなく、構造にすれば再現できる
  2. 組織は“何を創るか”と“何を創らないか”を明確にすると強くなる
  3. 権限移譲は、最強の育成手段になる
  4. オープン戦略とブランドは矛盾しない
  5. 複数の時間軸を扱える人が、創造を現実にする

どれも現場で効く考え方です。


最後に

エル・ブリは「天才シェフの伝説」ではありませんでした。

もっと本質的で、もっと地味で、もっと強い話です。

“創造性を仕組みとして設計したマネジャー”の物語なんです。

料理に限らず、

・プロダクト開発
・R&D
・クリエイティブ組織づくり
・スタートアップのOS
・チームのナレッジ化

こういう領域に関わる人なら、ヒントだらけのケースだと思います。

というわけで、今日はこのへんで。

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