こんにちは。
今日は、「本気の7割」という考え方について整理してみます。
この言葉、孫正義の記事で読んだものなのですが、
この内容も
「孫さんは大胆だ」
「直感で突っ込める経営者だ」
みたいな文脈で語られがちですが、実際に中身を見てみると、かなり真逆です。
これは勇気の話ではありません。
ものすごく用心深い人の、生存戦略の話なんです。
「本気の7割」とは何か
まず定義からいきます。
孫正義氏の言う「本気の7割」とは、
勝てそうだからやる
ではなく、
負けても死なない形を作ったうえで、勝ち筋がかなり見えている時だけ動く
という意思決定ルールです。
ポイントは2つ。
- 勝率は7割以上まで論理的に詰める
- 失敗しても、全体の3割以内で切れるようにする
ちなみに、この2つはセットです。
7割だけ真似しても、3割の設計がなければ意味がありません。
孫正義のルールを、かなり露骨に書くと
発言をそのまま噛み砕くと、だいたいこんな感じです。
① 損失は3割まで
失敗したら切る。
切ったあとも、本体は生きている状態にしておく。
「失敗しない」ことが目的ではなく、
失敗しても続けられることが目的です。
② 7割に届かないなら、やらない
- 五分五分は論外
- 「いける気がする7割」もダメ
- どう考えても7割以上だけやる
ここで言う7割は、確率の話というより、
思考をどこまで詰めたかの指標です。
楽観を削って、削って、
それでも残る「まだいけるな」という感触だけを使うわけです。
③ 迷ったら切る
情や意地で続けるのは、最悪の判断。
退却できないリーダーは危険。
孫さんはここ、かなりはっきり言っています。
評価されているのは前進力ではなく、
ブレーキを踏める能力です。
④ だから、外から見ると「むちゃくちゃ」に見える
チャレンジの数は多い。
でも、一つ一つは異常なほど慎重。
外から見ると、
「博打打ってる人」に見えるけど、
中身は超保守的な設計になっています。
つまり、数うちゃで語られる試行回数も
そういう7割前提での試行回数なんです。
これは何のモデルなのか
この考え方は、3つの視点で整理できます。
① ポートフォリオの発想
- 全体は守る
- 部分は切れる
- 個別の成功より、生存を優先
期待値を最大化するというより、
破滅しないことを最優先にしている。
② 「7割だと思い込む自分」への警戒
孫さんが一番警戒しているのは、
人は簡単に「これは7割だ」と思い込む、という点です。
- 楽観バイアス
- 過去の成功体験
- 周囲の同調
これを全部削ったあとに残るのが、本当の7割。
だから7割の確信とは、確率ではなく、思考の密度です。
③ リーダーの定義が違う
- 退けない → 無能
- 意地を張る → 無能
- 五分で突っ込む → 失格
勇敢かどうかではなく、壊さずに終われるかが基準になっています。
ここが一番大事:時間軸の非対称性
この思想を一段深く理解する鍵が、時間の非対称性です。
失敗と成功は、時間の出方が違う
- 失敗
- すぐ起きる
- 一撃で致命傷になりやすい
- 成功
- 遅れて出る
- 時間と一緒に積み上がる
この構造がある以上、勝率だけを見て判断するのは危険です。
なぜ7割まで詰めるのか
失敗は即死する。
成功は、あとから来る。
だったら、
- 怪しい賭けは最初からやらない
- 伸びるものだけを、時間に預ける
この方が合理的です。
なぜ3割で切るのか
一撃で終わる構造を、
最初から排除するためです。
3割とは、切ったあとも時間が続く余白です。
もちろん限界もある
この考え方は万能ではありません。
・7割は検証しづらい
まあ、「どう考えても7割」は、あとから都合よく語られやすい。
組織が大きいほど、都合の悪い情報も上がってきません。
・最初の探索フェーズには向きづらい
最初の探索段階では、
そもそも勝率なんて測れません。
五分五分の実験を全部否定すると、学習が止まります。
探索と勝負を分けられない組織だと、誤用されやすいです。
結局、「本気の7割」とは何なのか
これは、
- 勇気の話ではない
- 勢いの話でもない
時間を失わないための設計の話です。
- 守りを作ってから攻める
- 勝率より回復可能性を見る
- 感情より撤退条件を先に決める
事業でも、投資でも、人生でも使える考え方です。
7割は数字じゃない
7割とは、
- 思考を削り切った状態
- 反証に耐える構造
- すぐ引ける設計
- 全体を壊さない損失幅
- そして、時間を失わないこと
これが全部そろった状態を、あとから「7割」と呼んでいるだけです。
数字だけ真似すると、一番危ない使い方になります。
ここを外さないこと。
それが、この思想の利用時の肝だと思います。


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