※この章は、「頭では分かっているのに、つい直感や思い込みで選んでしまう」ことに心当たりがある人に向けた章です。
この記事では、
2で整理した「賭けの思考」が、
なぜ多くの人にとって受け入れづらく、続けづらいのかを扱います。
それは能力や意志の問題ではありません。
人間の直感や本能そのものが、
長期的に勝つ判断とズレているからです。
3-1|結果と正しさを結びつけてしまう錯覚
✔︎ 正しい選択が、良い結果を生むとは限らない
✔︎ 「負けた=間違い」という評価が、判断を壊していく
ポーカーでは、
正しくプレイしても負けることがあります。
逆に、明らかなミスでも勝つことがあります。
これは偶然性が強く影響するゲームだからです。
しかし、この構造は多くの人の直感に反します。
「結果が良ければ正しかった」
「負けたなら、どこかでミスをしたはず」
人は、そう考えてしまう。
ですが、この思考こそが、
判断精度を下げ続ける最大の罠です。
人生や仕事でも同じです。
短期の結果で選択を評価し始めた瞬間から、
合理性は少しずつ削られていきます。
重要なのは、
期待値の高い行動を、十分な回数で繰り返せたか。
この視点に立てるかどうかが、
「勝ち続ける側」に立つための第一歩になります。
3-2|目標は「結果」ではなく「選択プロセス」に置く
✔︎ 数値目標は分かりやすいが、判断を歪めやすい
✔︎ 本当の目標は、期待値の高い選択を続けること
「今月◯万円稼ぐ」
「今週で損失を取り戻す」
こうした目標は、行動のきっかけとしては有効です。
ただし、これに縛られすぎると、
本来取るべき選択を見送ったり、
焦って無理な判断をしてしまう。
数値は、あくまで結果です。
コントロールできるのは、
その時点での準備、ロジック、選択の整合性だけ。
「自分は最善を尽くしたか?」
この問いを評価基準に置けるかどうかで、
判断の安定性は大きく変わります。
3-3|「平均的」でいれば安全だという誤解
✔︎ 多くの人は、自分を平均より上だと思っている
✔︎ ゼロサムに近い環境では、平均=負け側
ポーカーや投資のような競争環境では、
「平均的」という地点は安全圏ではありません。
そこには常に、
少数の勝者と多数の敗者という
非対称な構造があります。
さらに人は、
自分の能力を過大評価し、
他人の能力を過小評価しがちです。
「自分はそこそこやれている」
そう思った瞬間から、
学習と改善は止まり、
静かに差をつけられていきます。
平均でいい、では足りない。
平均を超える前提で、
学び続ける姿勢が必要になります。
3-4|リスクを敵として扱ってしまう思考
✔︎ リスクは避けるものではなく、測るもの
✔︎ リスクとは、不確実性ではなく「計算できる可能性」
日常生活では、
「リスクはできるだけ避けるべきもの」
という価値観が自然に身についています。
しかし、ポーカーやビジネスでは、
リスクを取らなければ、見返りもありません。
重要なのは、
リスクを感情ではなく、確率で捉えることです。
そうすれば、
必要以上に慎重にもならず、
かといって無謀にもならない。
行動のバランスが、
ようやく合理的な位置に戻ってきます。
3-5|欲を「悪」と決めつけてしまう癖
✔︎ 欲を否定することが、美徳とは限らない
✔︎ 欲は、行動を生むエネルギーでもある
「欲に流されるのは悪いこと」
そう教えられてきた人は多いと思います。
しかしポーカーでは、
「勝ちたい」「上手くなりたい」という欲求は、
ごく自然な推進力です。
問題は、欲そのものではありません。
欲が思考を歪め、
判断を荒らしてしまうことです。
正しく訓練された欲は、
集中力や向上心に変わります。
否定するのではなく、
制御して使うことが重要です。
3-6|「筋の通った考え」を選び続けるということ
✔︎ 感情・迷信・結果論は、判断を壊す
✔︎ 思考のブレは、そのまま結果のブレになる
典型的な「筋の通らない思考」には、
次のようなものがあります。
- 「前に負けたから、そろそろ勝つはずだ」
- 「たまたま勝てたから、判断は正しかった」
- 「相手の運が良すぎただけだ」
- 「誠実にやっている自分は報われるべきだ」
これらはすべて、
現実を都合よく解釈しようとする思考の癖です。
賭けの世界では、
筋の通らない考えを選んだ回数だけ、
確実に不利になります。
感情がどう感じたかではなく、
考えとして筋が通っているか。
この基準を持てるかどうかが、
長期で生き残れるかを分けます。
3-7|実生活に潜む「負けパターン」の直感と思い込み
ここまで見てきたように、
勝てない理由は、能力不足よりも
直感的に信じてしまう考え方にあることがほとんどです。
多くの人が、無意識のうちに
次のような思い込みを採用しています。
| 直感的な思い込み | 実際に招く結果 |
|---|---|
| 負けた=間違いだった | 次の正解行動まで避けてしまい、判断の試行回数が減る |
| 欲は悪いものだ | 意欲を抑え込み、挑戦そのものを避ける |
| リスクは取らない方がいい | 一生「安全圏」に留まり、成長の機会を失う |
| 平均なら問題ない | ゼロサム構造では、むしろ不利な側に立つ |
| 自分の感覚が正しい | 感情が混ざった瞬間に、判断精度が崩れる |
| 正義は必ず勝つ | 市場やゲームでは、倫理が結果に直結しない場面も多い |
これらはすべて、
「悪意」ではなく 人間として自然な直感 から生まれます。
だからこそ厄介で、
気づかない限り、何度も同じ判断を繰り返してしまいます。
🔚 第3章まとめ:なぜ人は、間違った判断を選び続けるのか
この章で扱ってきたのは、
人が直感的に選びやすいが、実際には合理性を欠く思考です。
私たちは、自分が思っている以上に、
感情や本能の影響を強く受けています。
しかもその多くは、「正しいこと」の顔をして現れます。
だから「賭けの思考」に必要なのは、
才能や度胸ではありません。
それは、
理性によって、自分自身の思考を点検し続ける姿勢です。
勝ち続ける人が戦っている相手は、
他人でも市場でもなく、
自分の中にある「もっともらしい誤解」です。
🌱 次章予告
ここまでで、
「なぜ分かっていても判断を誤るのか」
その構造は、かなり見えてきたはずです。
次に立ちはだかるのが、
最も強力で、最も制御が難しい存在――感情です。
🎯 4:感情と金
―― ビッグポットが心を揺らすとき
賭けにおいて、
もっとも感情が乱れる瞬間。
それが「大きな金を失ったとき」、
あるいは「逃したと感じたとき」です。
なぜ人は、損失に過剰反応するのか。
なぜ合理性を知っていても、
ティルト(感情の暴走)に陥ってしまうのか。
次回は、その心理構造と、現実的な対処法を掘り下げていきます。
▪︎▶︎ 第4章|感情と金 感情と金 ― ビッグポットが心を揺らすとき


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